ブラックロックの挑戦

from:カテゴリーなし|2015.9.17

ブラックロックの挑戦
2015/9/15付日本経済新聞 朝刊

 米系運用会社ブラックロック・ジャパンは30日に「ビッグ・インパクト」という投資信託を設定する。社会問題の解決につながる業務を手がけ経営内容も良い企業の株を買う、ESG戦略を取り入れた個人向けの金融商品だ。

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 ESGとは「環境」「社会」「企業統治」を意味する英語の頭文字を並べた略語。欧州中心に広がり、社会に好影響を与える企業の経営を総称する概念にもなっている。

 「世界の投資家は社会的インパクトと投資リターンの両立が可能な投資機会を探している」

 米ブラックロックのフィンク会長は、新しい投信を世に出す背景についてこう述べている。具体的には先進国の3700銘柄の中から、独自の評価に基づいて200~800銘柄に投資する。日本企業では大手の製薬会社やガス会社などが、投資先の候補になっているもようだ。

 ブラックロックが世界に先駆けてまず日本でこうした投信を出すのは、企業統治(コーポレートガバナンス)改革の進展を見極めてのことだろう。

 今年から適用が始まった東京証券取引所の企業統治指針は企業に「ESG問題への積極的・能動的な対応」を促している。ガバナンス改革の目指すものは、社外取締役の経営監視や資本効率の向上にとどまらない。同時に企業は環境保護や社会改良への貢献も求められるわけだ。

 環境・社会分野の関連業務を営む企業は、中長期の有望な投資先になりうる。投資を通じたリスクマネーの供給は、社会的に価値ある企業の経営を応援することにもなる。フィンク氏のいう「社会的インパクトと投資リターンの両立」にほかならない。

 こうした投資が広がるきっかけになったのは、06年に当時のアナン国連事務総長が主導して投資による貧困撲滅などを目指す「責任投資原則」が制定されたことだ。同投資の有効性に関する研究も進んでおり、環境・社会問題の取り組みに熱心な企業の株価の推移は市場平均を上回る、といった検証結果も聞かれるようになった。

 最新の潮流はブラックロックの例が象徴するように、欧州が中心だったESGが米国の運用会社にも広がっていることだ。

 「ESGを投資プロセスに組み込んでいる」。買収ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)は自社の報告書で明言し、日本の投資先であるパナソニックヘルスケアにも温暖化ガスの削減を促している。

 ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントは、サンフランシスコのESG投資助言会社インプリント・キャピタルの買収を決めた。

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 7年前のきょう、米リーマン・ブラザーズが破綻した。以来、世界の投資家は利益の短期極大化だけを目指す、市場型資本主義の超克に挑んできた。ESGは挑戦の結果たどりついた解のひとつでもある。