「デザイン+コンサル」融合

from:カテゴリーなし|2016.7.6

製品・サービス、開発早く 「デザイン+コンサル」融合

2016/2/23 日経新聞

 【シリコンバレー=兼松雄一郎】コンサルティング・IT(情報技術)大手で、顧客の製品・サービスの開発支援にあたり新たな手法を導入する動きが広がっている。「デザイン思考」と呼ばれ、抽象的なアイデアを目に見えるプランや試作品にして検証する。試行錯誤を繰り返して開発のスピードと精度を高める。デザイン会社が先駆的に取り入れた手法で、米デザイン会社IDEO(アイディオ)に博報堂DYホールディングスが出資したことで日本でも一段と注目されるとみられる。

博報堂DYホールディングスが10日発表したIDEOへの30%出資は、コンサルティング業界で国際的な関心を呼んだ。スタンフォード大出身の技術者らが1991年に立ちあげたIDEOは前身企業が米アップルのマウスを手掛けるなどデザイン力の高さで知られるだけでなく、「デザイン思考」を提唱し業界に広めた存在だったからだ。

「我々は既存のコンサル市場の需要を食ってきた」とIDEOのティム・ブラウン最高経営責任者(CEO)は強調する。同社は外観を設計するだけの伝統的なデザイン業務にとどまらず、優秀なデザイナーの仕事の仕方を顧客の問題解決や組織の活性化に応用したコンサルティング手法を確立した。デザイナーだけでなく、技術者や研究者など多種多様な人材を集め、製品・サービスが使われる現場に自ら赴いて調査し、ユーザーが抱える複雑な問題を整理・視覚化する力に定評がある。

韓国サムスン電子がスマートフォンでアップルを急激に追い上げるようになった背景には、IDEOと組んで徐々に製品の完成度とブランド力を高められるようになったことがある。

IDEOの手法をまるごと取り込んだのが独IT大手SAPだ。同社のシリコンバレー拠点のオフィスの壁は色とりどりの粘着メモであふれている。粘着メモやホワイトボードの上に書くことで問題を整理・共有する。新しいプロジェクトが実現すべき価値や想定顧客の顔のイラストなども書き込む。ユーザーの製品・サービスの利用体験や感情の動きについて具体的に想像することで、解決のアイデアを生みやすくする。机や椅子は可動式にし、職場の地位や持ち場にとらわれない自由な発想や議論を促す。

SAPのサンジェイ・シロール副社長は「事業にとって重要な価値を洗い出し視覚化した上でまずは試しにやってみる」と仕事の進め方を説く。2012年から顧客へのコンサルサービスにデザイン思考を組み込んだ。IDEO出身者を雇い、今や全ての社員がデザイン思考の研修を受ける。

14年にデザイン思考を組み込んだコンサルサービスを始めた米IBMは既に世界最大規模の1千人以上のデザイナーを抱えているとされる。自社システムの販売を絡めた従来型のコンサルから、顧客の使いやすさを追求した素早いサービス開発へと軸足を移しつつある。米マッキンゼー・アンド・カンパニーや米アクセンチュアなども同様の取り組みをしている。

金融関連企業でも活用は進む。スペイン大手銀ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア(BBVA)は15年に米スプリングスタジオを買収した。顧客の利用体験に基づいたサービス改善を進めている。

 ▼デザイン思考(Design thinking) 優秀なデザイナーの仕事の進め方を取り入れた、製品・サービス開発などにおける問題解決の手法の一つ。米IDEOが提唱した。(1)利用者の行動を理解し(2)問題点を定義する。その上で(3)解決のアイデアを出し(4)簡単な試作品を作り(5)テスト・検証する。これを繰り返して議論を進め問題を解決する。部門の利益などのしがらみにとらわれたり、失敗のリスクばかりを議論して問題解決のスピードが落ちたりする弊害を抑える。